現代SOULの屋台骨、ラファエル・サディークという人物について

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1988年、R&Bグループ「Tony! Toni! Toné!」の一人としてシーンに登場して以来、今もベテランとして…いやむしろ何度目かの全盛期を迎えていると言っても過言ではないラファエル・サディーク。

数多のスター歌手と比べて、日本での認知度は今ひとつ高くないように感じられますが、今日のソウル、R&B、ヒップホップは、彼の手なくしては生まれなかったといえます。

そんな彼がこれまでに成してきた功績と、そして現在進行形で続く音楽への挑戦を、代表曲やプロデュース曲とあわせて紹介します。

R&Bスターからヒップホップへ合流し、プロデューサーとして開眼

ラファエルの本名はチャールズ・レイ・ウィギンズ。6歳でベースの演奏を始め、18歳の頃にプリンスの「Parade」ツアーにおけるシーラ・Eのバックバンドのオーディションに合格し、人生を大きく変えることになります。

ラファエルという名前はこのときに決めたステージネームだそう。

その後、兄と従兄弟の3人で「Tony! Toni! Toné!」としてデビュー。1stアルバム「Who?」がゴールド・ディスクを獲得し、3rdアルバム「Sons Of Soul」はダブル・プラチナ・ディスクに認定されるなど、圧倒的な人気とともに商業的な成功も手にします。

プロデュース業にもさかんに取り組んでいて、ディアンジェロの95年作「Brown Sugar」では「Lady」の制作に携わっています。

なお、ディアンジェロがシーンにどれほどの影響を与えたかは、こちらでも触れているのでぜひご一読ください。

この頃からラファエルはヒップホップに接近し、現在に至る非常にユニークな立ち位置の土台を築いていきます。

97年にTony! Toni! Toné!を解散し、The Ummah(ジ・ウマー)に合流しました。

The Ummahは、A Tribe Called QuestのQティップ、アリ・シャヒード・ムハンマド、そしてSlum VillageのJディラ(当時はジェイ・ディーと名乗っていた)、さらにディアンジェロという、錚々たるメンバーによって構成された音楽制作集団です。

Qティップとの共作「Get Involved」は、バウンシーなビートにR&B由来の上ネタと心地よいハーモニーが交わる快作。

99年にはヒップホップとR&Bが融合した新プロジェクト「Lucy Pearl」を開始し、翌年アルバムをリリースします。

その後も、ホイットニー・ヒューストンの「Fine」(2000)や、エリカ・バドゥの「Love Of My Life」(2002)、2Pacの「Crooked Nigga Too(Remix)」(2002)、メアリー・J・ブライジの「I Found My Everything」(2005)、ディアンジェロの傑作「Untitled」(2006)などを手掛けており、近年でもビヨンセの妹ソランジュのプロデュースなど、彼の携わった作品は枚挙にいとまがありません。

 

ソロでは「温故知新」を徹底したサウンドを追求

ラファエル・サディークが幾多のミュージシャンたちのヒットを支えていたのは上述のとおりですが、並行してソロ活動も行っています。

最も有名なのは1995年の「Ask Of You」でしょう。映画「Higher Learning」のために作られた楽曲で、同映画のサウンドトラックに収められています。

ちょうどディアンジェロの「Brown Sugar」がリリースされた時期でもあり、ネオソウルと呼ばれる音楽の原型がラファエルの中ではすでに完成していたことが伺えます。

それから、彼は2002年の「Instant Vintage」に始まり、現在に至るまで計5枚のアルバムをリリースしました。

アルバムごとに作風が異なり、その時どきで音楽的関心がどこにあるのかが見て取れるようで面白い。しかし一貫しているのは温故知新、古きものに敬意を払い新しいものを生み出すという志向です。

ある意味ではネオソウルの終着点といえる「Instant Vintage」、ブラックスプロイテーション映画のサントラをイメージしたような「Ray Ray」、オーセンティックなソウルへの愛がたっぷりな「The Way I See It」、さらにそこから磨きをかけた「Stone Rollin’」。

いずれも高い評価を得ており、グラミーにノミネートされるなど多くの支持を集めています(日本での知名度の低さは、やはりセールス面の弱さにあるのかなと…)。年を重ねるごとに自身の音楽的なルーツに一歩ずつ迫ってゆき、その深奥にいまだ眠る自らの感性を呼び覚ましているかのようです。

しかしその一方でラファエルは、パーソナルな感情を音楽に反映させることからは一定の距離を保ち続けてきた、と言います。

確かに彼の作品には、彼本人の心情や内面を深く掘り下げた曲がありませんでした。

ところが、彼が8年という期間を経て2019年にリリースした「Jimmy Lee」には、彼自身に起きた大きな心境の変化が投影されています。自らの人生や、感じてきたこと、家族のことなどを、初めて深く描き上げているのです。

少し長くなってきたので、Jimmy Leeについては改めて紹介したいと思います。

JAY

JAY

1984年生まれのファンク・マンガ・ライター。ソウルの帝王ジェイムズ・ブラウンを元にした「ファンキー社長」をはじめ、ファンク・ヒップホップをサンプリングした4コママンガを描き続けています。漫画アクションで「ファッキンJAYのマイルド・スタイル」を連載中。

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