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なぜ、ケンドリック・ラマーはすごいのか【1】代表曲・名曲を通して解説

      2018/08/05

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こんにちは、JAY(@f__kinjay)です。ソウルの帝王ジェイムズ・ブラウンをサンプリングしたマンガ「ファンキー社長」を描いています。

 

フジロック2018にも出演決定の生ける伝説ケンドリック・ラマー

2017年、アルバム「DAMN.」も大ヒットしグラミー賞でもラップ部門で受賞するなど、リスナーの期待値をしっかり超えた作品をバッチリ生み出し続け、今や全米を代表するラッパーといって差し支えない存在となったケンドリック・ラマー。フジロック2018への出演も大きな話題となるなど、日本でも注目度は抜群です。

しかし、そんなケンドリック・ラマーなんですが…

実際に、何がどうすごいのか、ほんとに腑に落ちてる人ってどれだけいるのでしょうか。

わたし、全作をリリック無視してザーーっと聴いてみたんですけど、基本的になんか暗くないですか?ヒップホップらしい重さとかハードさみたいな意味の暗さではなく、もっと陰鬱というか、聴いてて気が滅入ってくるようなバイブスで満たされているような…

フロウも声が高め、線が細め。しかもコンプトン出身でありながらギャングスタではなく自らを「良い子」と言ってのける感じ…優等生なの?でもインテリって感じでもないし…

それが、何でそんなにスゴイって言われてるんだろう? いや、私はホント、わからなかったんです、ずっと。たとえばNasのイルマティックを聴いたときみたいな感動(歌詞を理解せずとも凄まじくかっこいいと感じた)は無かったし、パーティチューンでもないからクラブ受けもしないんじゃないかと…

そこで今回は!フジロックの予習も兼ねて、ケンドリック・ラマーのメジャー3作品「Good Kid, m.A.A.d City」「To Pimp A Butterfly」「DAMN.」の歌詞をしっかり読みながら(国内盤の翻訳にも大いに助けられました。ありがとうございます)、全3記事にわたってケンドリックがどうしてすごいと言われているのかを明らかにしていこうと思います。

 

予め結論を言っておくと、やっぱりケンドリック・ラマーはスゴイ。この3記事を書くためにアルバム聴きこんだりアレコレ調べたりして、彼のすごさの一端に自分なりに触れることができたのはホント良かったなと思います。

フジロック行きたくて仕方なくなったので、これを読んでくれた方にも生でケンドリック観たいとか感じていただけると嬉しいなあと思ってます。

 

コンプトンで生まれ育った良い子、ケンドリック・ラマー

インディーズでリリースされていた「Section.80」ですでに高い評価を受けていたというケンドリック・ラマーですが、世界中で耳目を集めることになったのは、やはり2012年「good kid, m.A.A.d city」のリリースからでしょう。

 

 

タイトルを訳すと「狂った街の良い子」。

狂った街=彼の出身地であるコンプトンは、映画「ストレイト・アウタ・コンプトン」でも描かれていたようにギャングが日々抗争を繰り広げる暴力と貧困の街として知られています。

 

ケンドリック・ラマーはそんなコンプトンのゲトー、しかも二大ギャングのひとつ「ブラッズ」のナワバリ近所で生まれ育ったそうです。にもかかわらず、ギャングにはならずに「Good Kid」でいられたという自身の歴史が、そのまんまタイトルになっているわけですね。

ケンドリック・ラマーの代表曲・名曲を通して解説

ケンドリック・ラマーの代表曲・名曲を通して解説2

 

全体的には、かなり暗いトーンで進行していくアルバムだと思います。特徴は、アルバム内の楽曲にはそれぞれ時系列があって、それを追いかけていくとそれぞれの曲同士のつながりがより分かってくる、という作りになっていることですね。

ただ曲の時系列はバラバラになっているので、曲順と時間の流れはイコールではありません。

そこで重要なのが、曲の始まりや最後に挿入される、ギャングたちとの問答や両親との電話のやりとりです。これにより、各曲の時系列を追うことができます。凝ってますね…。

ヒップホップとともに生きていくという決意をラップした2曲め「Bitch, Don’t Kill My Vibe」や、ラッパーらしいイケイケぶりを垣間見せる3曲め「Backseat Freestyle」、

そして続く「The Art Of Peer Pressure」など幾つかの楽曲では、「Good Kid」でいながらにして、けれど周囲からの影響を受けずにはいられない状況が描かれます。好きな子の家に向かって車を飛ばしていたら、着いた先でギャングに待ち伏せされててボコられたとか…仲間と一緒だから飲まないわけにはいかない、盗みに加担しないわけにはいかない、ドラッグをキメないわけにはいかない…とか。

 

 

こうして聴いていると、「良い子」とはあくまで「ギャングではない」という意味で、やっぱりインテリということではなかったとわかりますね。

ただ、これだけだと日本でも似たような状況はありそうです。ぼく(JAY)は福岡の出身ですが、修羅の国といわれるだけあってこのくらいのことは普通に起きていました。

しかし、そうは言ってられなくなるのが9曲目以降です。

9曲目「Swimming Pools(Drank)」は、仲間たちと一緒にいる中で飲まないわけにはいられない状況を、酒に溺れることとプールを掛けてラップした曲です。で、注目したいのはそのアウトロです。ここで、前述のとおりボコられたケンドリックのために、仲間のデイヴがちょっと仕返し的なことをしようとします。

しかし、そのためにデイヴは相手のギャングに撃たれ、ケンドリックの目の前で息絶えてしまうのです。

 

 

仲間の死を通じてケンドリック・ラマーの内面に変化が

 

そのまま10曲目「Sing About Me, I’m Dying of Thirst」に続きます。

この曲は最初のヴァース(いわゆるAメロ)で、死んだデイヴの兄弟がケンドリックに「有名になったらデイヴのことを歌ってくれよ」と話します(それをケンドリックが演じています)。

続いて2番めのヴァースでは、前作「Section80」に登場する売春をしていたキーシャという女性の妹が、姉のことをラップしたケンドリックを「まるで2Pacの『Blenda’s Got A Baby』ね!うちの姉に恥をかかせるようなことをしないで」と咎める様子を、同じくケンドリック本人が演じています。

期待、希望や怒り、失望という相反する感情を一手に背負うことになったケンドリックは、次のヴァースで激しく葛藤します。

人々に強い影響を与えることができる自分のラップと、それを生み出す自分自身について、罪悪感や使命感の間を行き来し、彼に「死」を想起させるほどまでに悩ませるのです。

「俺には夢があるから死を考えるのかもな。
眠りは死のイトコだし(夢は眠ることで見る)」

Nasの有名なラインを引用しながら、内面にある希死念慮、死がそばにある実感、その苦悩を包み隠さず、それも徹底的に吐き出します(この曲は実に12分にも及ぶ)。

こうして自分を吐露しきったケンドリックは、11曲目「Real」で、まるで迷宮のような渇きの地獄を正面から引き受けて、愛に転化します。

つまり、いろんな人がいろんな固有の事情をもっているけど、結局のところ「自分を愛すること」が大事だという答えに至るのです。

この「自分への愛」はケンドリック・ラマーを知る上で重要なことです。単なる自己愛ではなく、深い自尊心。強さだけでなく弱さ、人を傷つけてしまう身勝手さなども含めて自分自身を受け入れ、愛するという気持ちです。

曲の最後には、ケンドリックの父からの留守電が流れます。

アルバムではしばしばこの両親からの留守電が流れるのですが、序盤ではハイになっていた父が一転して、ケンドリックに愛を説きます。

そして母は、序盤で女の子の家に行くために借りた車を帰さないケンドリックに怒りの鬼電をかましていたのですが、それもすっかり落ち着いて、ケンドリックに彼の使命を語ります。

この両親からの電話は、ケンドリック・ラマーが狂った街にいながらにして狂気をまとわず「良い子」として今のスタイルを作り出すことができた理由を端的に示しています。

アフロ・アメリカンの家庭においては、圧倒的に母子家庭が多いと言われます。そんな中、両親のいる環境で、きちんと息子に生きる指針となる価値観を伝えたというのは、ケンドリックがラップスターとなる過程において最も恵まれた点なのではないでしょうか。

そしてその両親からの深い愛に満ちた激励と言葉を受け止めて、ラストの「Compton feat.Dr.Dre」でアルバムはフィナーレを迎えます。

 

この曲ではマッドシティ・コンプトンを全力でレペゼンします。終わらない苦悩に苛まれながらも、わが街を愛し、街の悲劇を曲にして伝えていくケンドリック・ラマーの悲壮な強さに、圧倒されずにはいられません。

 

Good Kid, m.A.A.d Cityの良さはしっかりわかった!

 

苦難に打ち克つ強さの源泉として愛を見出すというアルバムの流れには、カタルシスのようなものを感じます。最後の「Compton」を聴いていると、プロデューサーのジャストブレイズが作った毎度外さないドラマチックなトラックのパワーもあって、なんだかホント泣けてきちゃうんですよね。最後のヴォコーダーもまさに西海岸!て感じで最高ですし…

全体として暗いのに、後味としてはすごく前向きになれるアルバムなんだなあと思いました。

もちろん、電話や会話によって時系列を表現するという設計のアイデアも面白いですし、ラップも最初の方で「声が高い・線が細い」と言ったのですが、ポジティブとはいえないこのアルバムの内容、そしてそのメッセージにはピッタリハマっていますよね。まさに「良い子」って感じのカドの無いフロー、小ギレイで聴き取りやすい発音、前に述べたNasの引用などヒップホップ的ウィットもしっかり押さえていますし、知性もにじみ出ています。

 

次回はセカンド「To Pimp A Butterfly」の紹介をしつつ、引き続きケンドリック・ラマーがなぜすごいと言われているのかを解き明かしていきます。

ちなみにこのイラスト、わたしが描いたケンドリック・ラマーなんですけど

ケンドリック・ラマーこういう感じで80人分ほどのラッパーのイラストを描いた「今日から使えるヒップホップ用語集」っていう本が出版されています。よかったら見てみてね!

 

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