ここではネタばれというかネタばらしとして、マンガの中で使っている元ネタについてちょっとお話しします。今回は第16話「メイシオさんの労働組合 パート2」です。
JB’s黄金期の最後のアルバム「Hustle With Speed」
南部を回る過酷なマラソンツアーに耐えられず組合費で鉄道を建設したメイシオさん。
ここで登場した電車は、the JB’sの1975年のアルバム「Hustle With Speed」のジャケットから。
このアルバム、好みが分かれるというか酷評されることも多いようですがJB’sのアルバムでは好きなほうです。前作「Breakin’ Bread」より好きかな?
ファンク誕生期の荒々しいタフでマッチョなそれと違って、成熟された時計の針のように刻まれるリズムや、美しく展開してゆく旋律は、よくよく洗練されたファンクの一つの完成形のようです。
特に、その美しさの中にどこか仄暗さと湿り気を秘めたミドルテンポファンク「(It’s Not the Express)It’s the JB’s Monaurail」は病みつきになります。
ラッパーのNASが1999年の4thアルバム「Nastradamus」でサンプリングしていますね。キャッチーでとても聴きやすいこの曲は、当時NASのプロデューサーとして名を馳せたL.E.S.によるもの。「Life’s Bitch」などのクラシックも彼の手によるもの。
さらにこの曲名、日本を代表するファンクバンド「オーサカ=モノレール」のバンド名の元ネタであるとも聞きます。
メンバーの移り変わりが激しいJB’s。「Hustle With Speed」は、メイシオ・パーカーとフレッド・ウェズリーが脱退する直前にリリースされた作品です。脱退したメイシオ、フレッドはその後ジョージ・クリントンが率いるPファンクに合流します。・・・と言われると、なるほど確かにこの「Hustle With Speed」は、ただ洗練されただけでなくデジタルな音色が随所で使われ奥行きを生み出しており、そこからは後期ファンクがもつ宇宙的な世界観の片鱗も感じることができます。
1975年のアメリカ、そして日本は
1975年は、メイシオとフレッドの脱退という大事件が起こりジェームス・ブラウン自身にとっても大きなパートナーを失う転機となりました。
しかし世の中ではもっと大きな出来事が起きていたのです。
それは4月の、ベトナム戦争の終結。アメリカとソ連という2つの覇権国家による世界の蹂躙の象徴たるこの戦争が、アメリカの敗北という形で終わりを告げました。
長きに渡る冷戦の代理戦争は、ヒッピーによる反戦運動やファンクの熱狂(その熱の矛先は主に公民権運動といえますが、ベトナムには数多くの黒人兵士が送られていたため、ベトナム戦争への反対意思も強くありました。一方で全く戦争に関知しない黒人層もいたようです)、ジェームス・ブラウン氏自身も慰問に訪れるなど、アメリカの音楽にも大きな影響を与えました。
ちなみにジェームス・ブラウン氏はこのベトナム慰問の前に日本に寄って公演しています。福岡県福岡市にあるソウルバー「JB’s Bar」のマスターはかつてソウルバンドを結成しており、来日時のジェームス・ブラウンの前座で演奏したことがあるそうです。
そのすぐあとの7月にはソ連の宇宙船ソユーズ19号とアメリカの宇宙船アポロ18号がドッキングに成功するという、冷戦の融解のような出来事があったというから忙しない話ですね。
日本といえば何が起きていたかというと、あのまるか食品の「ペヤングソース焼きそば」が発売されたりなどしていました。戦後の高度経済成長期を通り越して、現代の基盤となる商品やサービスが生まれ始めた頃ですね。いやあ、平和です。
おしまい