ここではネタばれというかネタばらしとして、マンガの中で使っている元ネタについてちょっとお話しします。今回は第20話「フレッドさんの徹夜残業」です。
今回はJBバンドの屋台骨、フレッド・ウェズリー(Fred Wesley)氏のお話。映画「ブラック・シーザー(Black Caesar)」サントラ制作でのエピソードなのですが、こちらでオーサカ=モノレールの中田さんから聞いたという制作秘話が公開されており、そこからネタとしてサンプリングしたものです。
「ブラック・シーザー」の公開は1973年。この時期ガンガン制作されていた「ブラックスプロイテーションムービー」の一つです。
真ん中のコマでジェームス・ブラウン氏が持っているのが「Black Caesar」のLPです。
公民権運動と金儲け主義の交差点に生まれた文化、ブラックスプロイテーション
ブラックスプロイテーションムービーとは日本ではブラック・ムービーなどと呼ばれるほうが一般的なようで、主に黒人ヒーローが大活躍するたぐいの映画のこと。1970年ごろにバカスカと市場に投入された作品群で、「ブラック・シーザー」もこれらの中のひとつです。
ヒーローは常に白人黒人が活躍することがなかったこれまでのハリウッド映画と違い、ブラックスプロイテーションでは黒人が主役。
ドラッグのディーラーとして。優秀な刑事(デカ)として。さまざまなヒーロー(ヒール)たちが土臭さ120%のソウル&ファンクに乗って大暴れするシンプルなストーリーの作品が多く、誰もが楽しめます。
当時、黒人の正当な権利を求める公民権運動が大きなムーブメントを巻き起こしていた背景もあいまって、多くの黒人から熱い支持を受けていました。
しかしてその実態は、ブラック(黒人)とエクスプロイテーション(搾取)という単語を組み合わせたジャンル名が意味するとおり「黒人から搾取する映画」という側面もありました。
すなわち時勢を利用してヒット率の高い黒人映画をどんどんと量産することで、背後で大きなカネを手にしていたのは結局のところハリウッド(白人)であった、という現実です。
とはいえ、黒人が白人をぶちのめすという当時のタブーに踏み込んだ「スウィート・スウィート・バック・アンド・バッドアス・ソング」をはじめとし、この映画ジャンルが当時の黒人たちの意識に与えた影響は大きなものがあったはず。
まあ、私は「スウィート・スウィート・バック」で、複数の映像を重ねたり色彩を反転させたような奇妙な映像的演出が多用されていたのを観て最後のほうはけっこう気が滅入ってしまいましたが。
ブラックスプロイテーション映画の代表作
しかしこうした事情を知らなくても、ブラックスプロイテーション映画は純粋におもしろい!
ストーリーが極めて単純なので英語字幕なしでもそこそこ分かるというフトコロの深さが魅力ですね。
基本は、イカした黒人主人公が憎たらしく描かれた白人たちを銃やらカラテやらでボコボコにするというのが定番の流れ。ちなみにナンボ格好いい黒人ヒーローとはいってもギャングだったりゴロツキだったり不良刑事だったりするので、そのへんは道徳観でいうと「?」となる方もいるかもしれませんが、別にブラックスプロイテーションに限らず映画では普通のことなので気にせずに。
特に人気があるのは、アイザック・ヘイズが音楽制作した「黒いジャガー(シャフト)」シリーズ、カーティス・メイフィールドの「スーパーフライ」。ロイ・エアーズの「コフィー」などもあるでしょう。
これらの歴史やカバーイラストなどが集められた資料集「ザ・ソウル・オブ・ブラック・ムービー」は、ブラックスプロイテーションの名作・佳作を知ることができるだけでなく、当時のむさ苦しいポスター画を楽しむ画集としても愛読できます。
誰かフレッド・ウェズリーの伝記映画なんか作らないでしょうかね〜。JBほどの強烈なキャラクターはありませんから、人物像より彼の生み出してきた音楽の変遷とか、それによって影響を受けた人たちの話とか。
まあ、そんな妄想をふくらませるヒマがあったら、英語に辟易して封も開けていないフレッド・ウェズリーの自伝本でも読破せよっていう話ですね。グッゴー!