フジロックで圧倒的評判。アンダーソン.パークの単独公演を見てきました

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こんにちは、JAYです。ソウルの帝王ジェームス・ブラウンをサンプリングしたマンガ「ファンキー社長」を描いています。

2018フジロックでは、相当熱い出演陣が苗場の地を彩りました(私は行ってませんが)。

筆頭はやはり、黒塗り広告なんかでも話題になったケンドリック・ラマーだったと思います。さらにボブ・ディランやN.E.R.Dなどもタイムラインを沸かせていました。

そんな中で一際、観客の圧倒的なプロップスを得ていたのが、今回私がライブを見に行ったアンダーソン.パークだったのです。

アンダーソン.パークとはどんな人なんでしょうか。簡単に説明します。

 

あっという間にスターダムに。アンダーソン.パークのこれまで

幼い頃から教会でドラムを叩いていたというアンダーソン.パーク。デビューは2014年、アルバム「Venice」のリリースで。28歳と、ちょっと遅めですね。

彼はその頃、サー・ラー・クリエイティブ・パートナーズ(エリカ・バドゥのプロデュースなどを行った制作集団。自身名義のアルバムもあります)のメンバーであるシャフィーク・フセインのソロ作で客演を果たすなど、ちょうど上り調子でした。Veniceの完成度の高さはもちろん、そんな非常に良いタイミングのリリースだったこともあって彼の名は広く知れ渡るようになります。

その後2015年にエミネムやケンドリック・ラマーなど錚々たるメンバーが参加したドクター・ドレのアルバム「コンプトン」に参加。ドレのフックアップは大いに話題になりましたが、それ以前からもノーウォリーズというデュオでも活動しており、ストーンズ・スロウ・レコーズやDJプレミアにその才を見出されるなど、すでにブレイクへのカウントダウンは始まっていました。

そして2016年のセカンド・アルバム「Malibu」です。前作同様、カリフォルニアの地名を冠した今の西海岸を形作る傑作アルバム。彼が引き連れているバンド「フリー・ナショナルズ」が前面に出た、ソウルフルでファンクでヒップホップで…何かのジャンルに押し止めることのできない自由かつ幹のあるサウンドに完全に魅了されました。

2017年の来日公演も即ソールドアウト。前述のデュオ、ノー・ウォリーズからもアルバム「Yes, Lawd!」をリリースするなど、快進撃は止まりませんでした。

というわけで、私はアンダーソン.パークに心酔していましたが、機会に恵まれずライブを見に行ったことはありませんでした。今回もフジロックには行かずじまいだったのですが、閉幕する頃の時間、ちょうど渋谷オルガンバーにおり、周りからチラホラと「アンダーソン.パークがすごかった」という声が聞こえていました。

そこでフジロック閉幕の翌日に豊洲Pitで開催される単独公演に急きょ参加しました。Pitといえば、かつてSOUL CAMPというイベントでエリカ・バドゥが圧巻のステージを披露した場でもあります。

ようやくライブで目にすることのできたアンダーソン.パークの感想は「確かにその評判に偽りなし!」でした。前置きが長くなりましたが、ここからはライブのもようをお伝えします。

 

アンダーソン.パーク登場〜来場者は1000人くらいかな?〜

豊洲Pitは非常に収容力のあるライブハウスです。1000人近く入っていたんじゃないかと思うのですが、それでも窮屈はなく、前方で見たい人はスムーズに前に進むことができるくらいの余裕はありました。

19:30の開始予定時刻を20分以上押したあたりで、ついに現れました、アンダーソン・パーク!頭には青っぽいドゥーラグ、服は上下ともguessでまとめた、まさにguess野郎です。

アンダーソン.パーク登場

登場するやいなやすぐに曲が始まり、ステージ上を激しく走り回ります。「あっ、こんなにアグレッシブな人なんだ」というのが率直な感想でした。

しかし正直いうと最初は少し、乗り切れませんでした。

今回の名義は「アンダーソン.パーク・アンド・ザ・フリー・ナショナルズ」。アルバム「Malibu」のサウンドを支えた、彼の盟友たちとのバンドセットです。しかし、うーん、なんかこう…足りないなあ〜なんて思ったんですね。確かにみんな盛り上がっているのですが、少しクラブっぽいムードだったので、もっとライブ感、欲しいなあ…みたいな。

なんて思っていた矢先、ステージを突っ走るアンダーソンがドラムセットに着座します。

スティックを手にした瞬間に猛烈に叩く!叩く!豪快な叩きぶりです!それまでのデジタルによるビートとは全く質感が変わり、一気にロウなグルーヴがほとばしります。コレコレ〜コレが欲しかったのです。

そこからしばらくドラムを演奏し続けます。

う、上手い!すごいリズム感!快感!

音の切り方、止め方が素晴らしく、打音がキュッと引き締まっていて、絶妙な「間」が生まれています。彼のボーカルにある独特な切り方・止め方は、このドラム技術によるものなんですね。たぶんドラムを演奏するときのフィーリングをボーカルへのアプローチにかなりそのまんま生かしているのではないでしょうか。

たとえマッタリしたビートであっても、決してだらしなくはならない。一貫したパワフルさがあります。

ここまでちゃんとした聴き比べをさせてもらえたら、もうドラムは生じゃないと物足りなくなっちゃうかもしれません。

 

アンダーソン.パークが拓く新しいファンクの地平

そしてもうひとつ言いたいのは、彼はドラムのフィーリングを変化させることによって、巧みにムードを操作しているということです。

ハードさ、軽快さ、いなたさ、ネオソウル的、ファンク的、ロック的、ヒップホップ的…楽曲のアレンジはバラエティに富んでいますが、観客は違和感なくその変化するムードに乗って、グルーヴは消えません。

そして全体を通じて流れているのが彼の地元、西海岸のフレイバーです。

ちゃんと調べたわけではないのですが以前から思ってることとして、アンダーソン.パークはディアンジェロが「voodoo」「Black Messia」で拓こうとしたファンクの地平を、彼とは違った形で見出しているのではないでしょうか。

(そもそもディアンジェロは自らの音楽を「ネオソウル」というくくりでまとめられることに好意的ではなく、自分の受けてきた影響や描くイメージをただグッドミュージックに転化している、という姿勢の人です。よって私が上で言った「ファンクの地平を拓く」というのはディアンジェロの意図とは外れた言い方かもしれません。が、ここは私がファンク好きであり、90年代にファンクのフロンティアを開拓したのは間違いなくディアンジェロだと思っているので、そう書いています)

ディアンジェロは「Black Messiah」で、そしてアンダーソン.パークは西海岸から「Malibu」によってファンクを切り開いています。激烈の中にあるメロウネス、揺さぶられる腰、避けられない悶絶。ファンクそのものです。

そしてここで生まれる音楽は、もはやレコード屋さんやCD屋さんの棚にある「SOUL」「ROCK」「HIPHOP/R&B」などのジャンル区分ができない音楽となって羽ばたいていきます。

これまでも古くはギル・スコット・ヘロン、ちょっと前ならエリカ・バドゥ、ミシェル・ンデゲオチェロなど、ジャンルによる棚の区別が難しいアーティストたちはいました。アンダーソン.パークも同じです。

さまざまな要素を横断的に取り込みながらもカオスに、かつタイトにまとめ上げているセンスには脱帽するほかありません。

 

悶絶ライブは約90分。最後まで笑顔のアンダーソン.パーク…また来てね!

ライブで演奏された楽曲はアンダーソン.パークだけではなくノーウォリーズからも。全体で6割以上はドラムを叩いていたと思います。しかしドラムを叩きながらのボーカルでも声がブレません。きっと体幹が安定しているのでしょう。

今回よかったのは、前方に背の高い人が少なくてよく見えたことと、たまにいる「全編録画男」がいなかったことです!

全編録画男とは…

ライブを終始スマホで録画し続ける男のこと。男女複数人でライブに来ている中にいることが多く、背が高くて、長時間のハンズアップに耐えられる丈夫な体をもっている傾向がある。彼が全てを録画してくれるので他の仲間は心置きなくライブに興じることができる。撮影の可否とかはよく分からんけど、後ろの人が見えづらいだろ、とは思ってしまいます。

登場直後こそ録画する人もいましたが、みんな途中から肉眼で見るライブに没頭していました。観客の多幸感もはっきりわかる、すごくいい雰囲気に満ちていました。

特に後半で「Suede」のアウトロ、激しいドラムからの「Am I wrong」では失神しかけました。あんな魂こもったドラム見せられて、そこから私の大好きな曲に移るわけですから…たまりませんでしたね。

しかしかろうじて失神せずに済んだのは、ドラムで一度曲をシメたあとにAm I wrongに移ったからです。ドラムの洪水に飲まれながら「あー絶対このあとAw I wrongだな」と予想できたがゆえに、曲を切らずにつなげて欲しかったなあ…Am I wrongはイントロがドラムブレイクで始まるので、たぶんそのままつなげたはず…そこでグルーヴを止めて欲しくなかった…とはいえ、すごく興奮したのは間違いないのですが。

アンダーソン.パークとは学生時代からの友達だというホセ・リオスによるワウ全開のギタープレイ、ノリを底から高めてくれるベースのケルシー・ゴンザレスと、フリー・ナショナルズも最高でした。

中でも特筆すべきはキーボードのロン・ジェロム・アヴァント(読み方合ってるのかな)による豪快なピアノ・ソロ!こればっかりは腰が抜けそうになりました。彼に関しては、ヴォコーダーを使ったアゲ方も極めてヤバかったです。

ノリノリのアンダーソン.パーク

このファンク・ソロにはアンダーソン.パークも悶絶を抑えきれなかったようで、めちゃくちゃ踊っていました。

ちなみにこの振り付けはライブのラストでもステージのど真ん中で超速いスピードで披露してくれて、私を含め観客みなさん大いに沸いておりました。

また来日するならぜひ見に行きたい。そしてまだ発表も何もないですが、ネクストアルバムにも期待しています。次はどんな音楽で、ファンクを広げてくれるのでしょうか。彼らなら、再び悶絶の西海岸ミュージックを生み出せるはずという確信しかありません。

フジロックも見たかったな、やはり!

 

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JAY

JAY

1984年生まれのファンク・マンガ・ライター。ソウルの帝王ジェイムズ・ブラウンを元にした「ファンキー社長」をはじめ、ファンク・ヒップホップをサンプリングした4コママンガを描き続けています。漫画アクションで「ファッキンJAYのマイルド・スタイル」を連載中。

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