こんにちは。「ファンキー社長」作者のJAYです。
去る2016年2月3〜5日、丸ノ内のコットンクラブにて急遽来日公演を行ったアルフレッド”ピーウィー”エリス氏。
※画像はコットンクラブ公式サイトより引用
ピーウィー・エリス氏といえばジェームス・ブラウン氏のバンドに1965〜69年の間在籍し、フレッド・ウェズリー氏よりも前にバンドリーダーを務めていたことで知られる伝説的な人物です。
ジャズ、ソウル、ファンクを股にかけ数々の名曲を生み出したJBバンドの立役者
楽器はサックス、主にテナーを吹いているようですが、もともとジャズ畑で腕を磨いていた人で、ベーシストのロン・カーター氏と一緒にやっていたり、ソニー・ロリンズと一緒に音楽を学んだりしていたこともあるようです。生まれはフロリダですが、ニューヨークで音楽学校行ってたんですね〜。
まだジェームス・ブラウン・バンドが「the JB’s」という名前で呼ばれるようになる以前の在籍になりますが、彼は後年のフレッド・ウェズリー氏と同じように、ジェームス・ブラウン氏が構想している音楽を実際に曲の形に落としこむ実務家でありました。
ピーウィーが作曲した、ファンクの誕生とも言われる名曲「Cold Sweat」では、ホーンのリフが強烈な印象を与えてくれる私も大好きな曲ですが、このリフはマイルス・デイヴィスの「So What」に影響を受けて生まれたもの。もとがジャズ奏者と考えると必然的な影響かもしれませんね。
しかしこの時点ではまだファンクという概念もなかったでしょうし、1拍目に重きを置く独特のタイム感「The One」の概念も生まれていなかった頃ですから、ピーウィーはJBの脳内イメージをどういう感じで共有していったのでしょうね・・・やはり映画「ジェームス・ブラウン〜最高の魂を持つ男〜」でやっていたように、「お前の楽器はなんだ」なんていう恐怖のやりとりを日夜繰り返しながら形作っていったのでしょうか。
そのほか、あの「Say it loud and I’m black and I’m proud」もピーウィーの仕事によるものです。音数の少ないタイトな楽曲に子どもたちとのコール・アンド・レスポンスがよく響く同曲は、公民権運動で主導的な立場にあったキング牧師が暗殺されたすぐあとにリリースされ、立ち上がる黒人たちの魂を代弁しました。当時のR&Bシングルチャートで6週連続1位を獲得したJBの代表曲のひとつです。
ブーツィ・コリンズなどが加入するより前にピーウィーはバンドを脱退しますが、その後も精力的に活動します。中でも外せないのが「The Chicken」。マイルス・デイヴィスの伴奏をやっていたサックス奏者のデイブ・リーブマンによって77年にリリースされますが、このときのタイトルは「The Chicken Soup」とされたのだそうです。今回来日にあたってのバンドの名義「PeeWee Ellis Assembly」で「The Chicken Soup」と題された動画を見つけました。どうも来日時のメンバーとは一部異なるように思われますが。
この「The Chicken」を後にジャコ・パストリアスがカバーして大ヒットしたということで、その後もいろんなアーティストが演奏するスタンダードとなったのでありました。ジャコのジャズファンク風味より純ファンク風味のほうが好きですけどね、私は。ジャズファンクはとても格好いいけれど、やっぱり小綺麗すぎるので。
ベテラン感あふれる、ずっしり重さのある演奏
さてライブのほうですが、さすがに74歳のご高齢ということもあり、ステージに上がる歩みもゆったりとしたものでした。マイクに向かって出した最初の一声はか細くて、やっぱり遠路はるばるの長旅だし疲れてるんだろうなあ・・・と感じさせるものがありました。
けれど「コットンクラブへようこそ。今日は皆さんにとても素敵な時間を過ごしていただけること・・・約束します」という紳士的な挨拶に始まり鳴らすホーンの音は十分に張りを感じるものでした。空気を切り裂くような類の音ではなく、しっとりと、でもずっしりと届くようなホーンの音色。
こういうのは失礼かもしれませんが、このバンドの演奏自体を楽しむよりも「ああ・・・この人がJBの音楽をつくった人なんだ。理不尽に耐え、ジャズを修め、たくさんの変遷を経て今ここでこういう音楽をやってるんだな。生涯現役ってことで、そりゃあお歳のこともあるからかつてのような緊張感は失われたにしても、この人は楽器を演奏し続けるんだ。なんか音より生き様をここで見せてもらってるという感じ」みたいなことを想像していました。
一通りのセットリストが終わると「アンコール? CDで聴いてちょ」という具合でオチャメにステージを去ろうとするも、呼びかけに応えてアンコールの1曲。
ジェームス・ブラウンの「I got you(I feel good)」を原曲の約半分の超スローテンポによるカバーで、ピーウィー自身がボーカルとして声を出しながら演奏してくれました。この曲は65年のリリースですが録音されたのは64年ということで、ピーウィーが在籍する前の曲ですね。しかしバンドに加入してからは彼もさんざん演奏してきたはず。その歴史、なんと50年。50年もの長い期間、演奏し続けてきた曲・・・その重みが、BPMの遅さも相まってズシンと耳から腹に感じられました。
さて、演奏が終わって帰ろうかなーと思ったらカウンター付近を歩いていたので声をかけてみました。
ということで、JBゆずりの商売上手ぶりもバッチリ見せてくれたピーウィー氏でした。
おしまい。グッゴー!