エリカ・バドゥ来日公演がすごすぎてどうしようもないので回想

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こんにちは、JAY(@f__kinjay)です。
ソウルの帝王ジェームス・ブラウンをサンプリングしたマンガ「ファンキー社長」を描いています。

 

ネオ・ソウルの女王エリカ・バドゥ来日

2017年10月、エリカ・バドゥ来日。

エリカ・バドゥは、アメリカのソウル・R&B界を代表する素晴らしいシンガーです。

今回の来日は、ビルボードライブでの単独公演と、MTV主催のソウルキャンプというフェスに出演ということで約2週間ほどの長い滞在になりました。

しかし来日が決まってからというもの、とにかくビルボード公演のお値段が話題になっていましたね。リーズナブルな席でも33000円、高い方だと43000円という…。以前ローリン・ヒルの来日公演が同じような値段だったときもずいぶん騒がれましたが、またしても突きつけられたこのチャレンジングな価格に「お、おう…」となった方も多いのではないでしょうか。

というわけで、ビルボードに行くほどの余裕はないという方々は当然「ソウルキャンプなら13000円でエリカ・バドゥが拝める! しかもショウビズ&A.G.もブランド・ヌビアンも、ロイ・エアーズまで観られる!」と考えるわけでして。ソウルキャンプにとっては絶好のプロモーションになった格好でしたね。

で私も例に漏れず、ソウルキャンプに向かいました。

エリカ・バドゥ。ディアンジェロとともにネオ・ソウルの新しい扉を開き、今なおその世界を拡張し続けている唯一無二のアーティスト。今や「ネオ・ソウル」のくくりは不要といって差し支えありません。

今回で来日は実に7回目だそうですが、私は2015年スターフェスで初めて観ました。そのときはNAS「Illmatic」リリース10周年記念ということでNASがメインだったんですが、私は完全にエリカ・バドゥにやられてしまったのです。その記憶を少しずつ蘇らせながら、ずっとエリカの登場を待ち焦がれました。

 

20分遅れでエリカ・バドゥ登場

開始予定時刻を20分過ぎ、暗闇の中でバンドがイントロダクションの演奏をはじめました。今か今かと固唾を飲んで待ち続ける私たちの焦れた気持ちを切り裂くかのように鳴り響く音、それに合わせて背後のスクリーンも激しく光ります。そして舞台袖からゆっくりと現れ、ドラムの音に合わせて一歩一歩ステージ中央に向けて歩くエリカ・バドゥ。

一瞬の静寂を縫って「エリカ様ーーー!!!」という観客の叫び声に笑い声が沸き起こる。しかし緊張を緩める隙もなく、一気に演奏が始まります。

1曲めは話題になった電話アルバム「But You Caint Use My Phone」から「Caint Use My Phone」ですかね。

そのあと、「Baduizm」「Mama’s Gun」などの既発アルバムからまんべんなく歌ってくれました。

いやあ、しかし…こんなに「いいからとにかく観て、聴いてみて!」としか言いようがないライブは初めてかもしれませんね。あの素晴らしさは言葉じゃ表現しきれません。あの場にいた全ての人が感動とか興奮の渦に溺れてトランス状態に陥っていたと思います。

バンドを完璧にコントロールするエリカ・バドゥ…まるでジェイムズ・ブラウン

バックバンドにはエリカ・バドゥのプロデューサーでもあるRC・ウィリアムズ擁するRC&The Gritzを従え、同郷(どちらもテキサス州ダラスで活動)のよしみだからか長い付き合いだからか、完璧に通じ合ったフィーリングによって、誰にもマネできない演奏を実現しています。

というのは、エリカ・バドゥのライブは即興性が高く、セットリストもエリカ・バドゥの意思によって変化するのです。バンドはエリカのキュー(声や手の動きによる指示)に常に注意を払い、それに合わせて演奏を変えていきます。しかしすべて台本通りなのでは?と思いたくなるほどに、とにかくバンドとの息がピッタリなのです。エリカの制止によって演奏が止まったあともカウントを続けており、最高に心地よい瞬間に一気に演奏が再開する。特にベースとドラムが素晴らしく、エリカによる場の支配を盤石なものにしていました。

ちなみにRC&The Gritzは自分たちでもアルバムを出しています。ソウル・ファンク・ジャズなどをクロスオーバーしたメロウなグルーヴ満載の楽曲群で、ディアンジェロやザ・ルーツ、ジェイ・ディラなどが好きな方には間違いない逸品です。

でエリカ・バドゥですが、この「セットリストをつくらない」「キューによってバンドに即興の指示をする」と言うスタイルは、まさにジェイムズ・ブラウンそのものです。(たぶんエリカ・バドゥのバンドには罰金制度は無いと思いますが)

ジェイムズ・ブラウンがキューの動き一つをもダンスの中に組み込んでいたように、エリカ・バドゥのキューも非常に美しい手の動きや声によって演出の一部になっています。特に指の先の先にまでソウルが行き届いているような繊細な手の仕草は、観ているあいだ時間が止まっていると錯覚するほどに見とれてしまいます。そして心を失った次の瞬間に音が鳴り、一気に持っていかれます。静から動への移り変わりだけで涙が出るほどの衝撃なのです。

ショウ全体としても趣向が凝らされていました。背後の巨大スクリーンには宇宙、人体、アブストラクト、エジプトなど、さまざまな映像が流れていました。そして天井から放たれたレーザーによってピラミッドを模したような四角錐が描かれ、そのピラミッドの中にエリカ・バドゥが立っています。おそらくここでは、いわゆるアフロ・フューチャリズムを表現していたのではないでしょうか(こちらの記事の最後でアフロ・フューチャリズムにふれています)。

 

ウサイン・ボルトのポーズ

エリカ・バドゥはMPCを叩きます。そして、ペットボトルを使わずに水筒から飲み物をコップに注ぎ、飲む。2年前の来日時と同じです。

そしてもうひとつ2015年と変わっていなかったのは、曲が終わるたびにキメるウサイン・ボルトのポーズ。

エリカ・バドゥ最高

 

最初は神秘的で厳かな雰囲気がありましたが、ライブが進むうちにどんどん熱が高まっていき、フランクになっていきます。

お腹を見せて照れるエリカ。
観客に向けてタオルを投げる動きをしたところで寸止めを繰り返すエリカ。
タオルを投げたあとに「誰がゲットしたの!?誰!?」と観客に向けて聞き、ゲットした客に向けて「臭いでしょ!」とおどけてみせるエリカ。
Snoop Doggの「Ain’t No Fun」1ヴァースを歌うも、途中で演奏をストップさせ「プ●シーなんて言ってもうた」と言うエリカ。

どれもこれも、途方もなく魅力的です。そしてライブの完成度の高さによってある種の緊張感や神秘性が漂ってきますが、それを自ら崩して敷居を上げないようにもしている心遣いも感じ入るものがあります。

終盤、エリカは「戦争も憎しみもいらない」と話し、会場全体が「No More War」をコールします。奇しくも同月22日には衆院選が控えており、この瞬間の夢のような心地と現実の恐ろしさとのギャップでどうしようもない気持ちになりました。

最後はステージから降りて観客たちとふれあいながら歌い続けるエリカ。止まらない演奏、会場の一体感。ああ、最高、最高!

ソウルキャンプでは1アーティストの持ち時間はきっかり60分だったようですが、エリカ・バドゥは実に2時間近くもライブを続けてくれました。しかしそれでも、まるで一瞬の夢のようでした。なんと濃密な時間だったか…。この時間を過ごすことができて、本当によかった。

 

おまけ〜過剰なカブセ〜

ライブを観ているときにすぐ近くに黒人女性3人組がいました。彼女ら恐らくエリカの大ファンなのでしょう、登場とともに卒倒するかのような絶叫で歓迎し、とくに「I Want You」が始まったときなんて「え!?え!?マジでこの曲やってくれるの!?」という失神寸前のテンションで興奮しまくっていました。

なにしろ大ファン、歌詞はすべて覚えているので大声で歌います。おかげさまでこちらはエリカの声が聴こえない! …盛り上がるのは結構なのですが、エリカ・バドゥってけっこう「アッ、アッ」みたいに吐息めいた声で歌うこと多いじゃないですか。これすら完コピするわけなんです。後ろで一般人の「アッ、アッ」を聞くのは、なかなか我慢ならざるものがありました…

が、エリカのライブは先述のように即興性が高くアレンジされているので、大ファンといえどもすぐに展開がわからなくなり一緒に歌うことができなくなります。というのは救いでしたね。

…なんて書いてたら、ソウル評論家の吉岡正晴さんのブログにも「シスター三人組」が登場しているではありませんか。会場は違いますが、たぶん同じ人だと思います。ははは。

とにかく最高なライブでした〜〜。おしまい。

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JAY

JAY

1984年生まれのファンク・マンガ・ライター。ソウルの帝王ジェイムズ・ブラウンを元にした「ファンキー社長」をはじめ、ファンク・ヒップホップをサンプリングした4コママンガを描き続けています。漫画アクションで「ファッキンJAYのマイルド・スタイル」を連載中。

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